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裸足で走る。石が肌に刺さって痛い。
燃えている。そこら中で真っ赤な炎が踊り狂っている。
空気は喉が焦げそうなほどに熱い。
わたしの手を引いて走る姉の後ろ姿だけが、この時のわたしにとっての全てだった。
周りの古い民族家屋が焼けていくのも、炎の中で人が焦げていくのも、胸や首を斬られて即死したのだろう村人も、目に入らない。いや、意識の中に入らない。
母さんがわたし達の後ろでせきたてる。急ぎなさいと。
……なぜ、こうなったんだろう。
命の危機、そんなものは感じなかった。怖さはある。でも、それも他人事のような、実感がわかない。ただ、ひたすら疑問が胸の底で渦巻いていた。
きっと、国の偉い人の言うことにわたし達が従わなかったから、こうなったのかもしれない。
炎は暴力的な熱と色をもって、木造の家々も村の人達も呑みこんでいく。その底無しの食欲を抑えることは一寸たりともない。 いずれ、この村は炎一色に染まるだろう。いや、もしかしたらもう染まっているのかもしれない。
夜空を見上げてみても星の輝きはなかった。そのかわりに、炎の吐き出す黒煙が空に覆い被さっていた。
細い道が開けて広場に出た。途端、熱した酸素が肺に入り込んだ。呼吸が軽くなる。
ズダッ!
後ろで何かが土の上に倒れた音がした。
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