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母さんの横に、包帯で全身を巻かれた男が立っている。その男は、細い剣を手にしていた。
剣の刃は赤く濡れ、刃先から血の雫が垂れている。
……あれが、母さんの胸を。
ギシ。ギギギ。
闇夜に木の軋む音が響く。
男の背後に建つ小さな小屋が炎の中で崩れ、火の粉が夜空へ舞い上がった。
「逃げなさいッ!! リリアッ! レティッ!!」
そうして、ようやく状況に思考が追いついた。
その時には母さんは死んでいた。細い剣が描く赤い弧が、母さんの首を断っていた。
霧のような血飛沫が上がる。
姉が引きちぎれそうな声で何かを叫んだ。
でもその内容は、わたしの頭の中には入ってこなかった。わたしの意識は彼を見ることだけで一杯だったからだ。
彼は、血に染まった布の下で悲しそうな表情を作っているように見えた。紅の瞳が、悲しみに暮れるように伏せられる。
この村の悲劇は、この男の手で引き起こされたというのに。彼は、喜ぶでもなく楽しむでもなく、悲しんでいた。
訳が分からない。
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