第一話『青年と姉妹』

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 数日前まで彼は優しい人だった。でもこの悲劇を起こしたのも彼だ。そして、躊躇なく人を殺めたのも彼だ。だけど、人の死を悲しんでいるのもまた、彼だ。  わたしには、どの彼が、本当の彼なのか分からなかった。  ただ一つ、彼は望まぬ事をしている。それだけは分かった。  ……可哀想な人。  彼は、すまなさそうに伏せた目を上げた。目が合う。   わたしには、目の前の、母さんが死ぬ光景がただひたすら遠く感じた。  本当に、一瞬のことだった。母親が倒れて、振り返って見たら、首を切り落とされていたのだから。  きっと、苦しみを味わう暇などなかっただろう。もしかしたらそれは、彼の優しさだったのかもしれない。  男はさっと剣を振り払い、刃についた血を落としていた。パシャ、と血だまりが揺れた。  辺りで燃え盛り、爆ぜる炎の音の中に音が一つ、波紋が広がる。  母さんは、線の切れた人形のように力尽き、動かなくなった。
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