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「ねえ、馳那。
あのとき、馳那は言いましたよね?
私の心が幼いから、幻想を見ているだけだって」
「………………言ったね…」
静かに問いかける香椎に同意して、馳那の視線はやはり彼女の薬指を飾る指輪に向く。
その言葉通りに、自分と別れたあとに、すぐに相手を見つけて子供までいる、そんな彼女に、自分の心はどん底なのに、彼女は更に傷をえぐって微笑んでいる。
そんな馳那を嘲笑うように、向けた視線の先、香椎は指輪を薬指から引き抜いておもむろに馳那の目の前に突き付けた。
「……………馳那、本当にこの指輪に見覚えはありませんか…?」
「……………………っっ…そんなの、あるわけ……………………え…?」
見せ付けられた指輪に、見たくなくて視線をそらそうとするが、映り込んだ視線の先、見覚えがああるその指輪に、馳那は慌てて部屋の隅に追いやっていた自分の鞄に視線をやる。
「………………ちょっと………え?…………待って…」
慌てて椅子から立ち上がり、鞄にかけよって、中を漁り、手に当たった小箱に安堵して、取り出す。
きちんと包装されたその包みは、購入したときのまま綺麗にラッピングされていて、一見あのときのまま変わらないように見える。
震える指で包装を解いていき、恐る恐る箱を開ければ、中に入っているはずの指輪は無く、箱の中身はもぬけの殻だった。
「ど…いう……こと?」
力が抜けて指に挟んでいたカードがヒラリと落ちて、床を滑り、香椎の足元までたどり着く。
それを拾う香椎に馳那の身体がビクリと跳ね、顔色を失って動揺した瞳がカードに目を向けた香椎を捉えて慌てて手を伸ばす。
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