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「…見るなっ!!」
が、間に合わず、思わず出た大声に、二人の子供がビクリと身体を震わせた。
「…………かあさま?」
「大丈夫ですよ」
不穏な空気を感じ取ったのだろう子供は香椎へと不安そうな視線を向けるが、香椎がそれを落ち着かせるようにニッコリ微笑む。
「…………母様ね、ジュースがのみたくなっちゃった。
二人で買ってきてくれる?」
「…………でも、かあさま」
少女の方にお金を渡して、背を押せば、少年の方が心配そうに香椎を見上げ行くのを躊躇っている。
「大丈夫。
そうね、戻ってくるまでには仲直りしておくから、帰ってきたら皆でお菓子を食べましょう?
その為にお菓子も買ってきてちょうだい」
「………………わかった…ぜったいだよ?」
崩れない香椎の笑顔に、渋々といった表情で少年が少女の手を引いて、部屋を出ていこうと扉の前まで足を進めた。
「変な人に声をかけられたら、大声を出すのですよ?」
声をかけた香椎に頷いて、彼女にそっくりな黒耀が馳那を射抜く。
「かあさまをいじめたら、僕が許さないからな!!」
言い捨てて、部屋を出ていく幼子を呆然と見送りながら、閉じられた扉に再び香椎に視線を向ければ、香椎は手に持ったカードに目を通し、やがて微笑んで、馳那に視線を向けた。
そこに書かれている内容を思いだし、馳那は居心地悪く視線をそらす。
中に書かれている想いは今も変わらないのに、それを伝えたい相手はすでに誰か知らない他人のもので、なのに今更ながらそれを暴かれて、それ以上に惨めなことはない。
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