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「……愚かしいだろう?
そんなものをいつまでも持っているなんて…笑って良いよ…」
「………笑いませんよ」
自嘲した馳那を困ったように見つめて、香椎は指輪をはめ直して馳那の前まで来てしゃがみ込む。
「馳那って、ホント鈍感ですね」
呆れた香椎のため息に、意味が分からず睨みつければ、愛おしそうに指輪を眺める香椎が見える。
「……私が指輪を貰ったのは、これっきり。
これだけです。
この意味、分かります?」
困ったように笑う香椎に、馳那は呆けて再び彼女の指輪に視線を戻す。
大事そうに左手の薬指にはめられたそれは、認識した今は間違いなくあの日自分が彼女の為に買った指輪。
よく考えて、何故それがそこに収まっているかと言う疑問に漸く気付き、驚愕して馳那は信じられないと言う様に何度目になるか、視線を香椎へと向けた。
「…………ねぇ、………あの子たち…いくつ?」
「今年で5つになります」
微笑んで答える香椎に、確信めいた一つの考えが思考をめぐり、やるせなさに顔を歪めて溜息を付く。
自分の鈍感さに落胆して、情けなくて堪らなくなる。
「5年前の君は……俺と一緒にいた……」
「はい」
「………あぁ……そう…か……」
気まずくて上げられない顔に、反するように彼女の声は柔らかくて、伏せた視界に、彼女の白い手が映り込んで、垂れ下った馳那の手をやんわりと包んで持ち上げた。
「ねぇ、馳那」
呼ばれて、顔を上げると、してやったりとニンマリ笑う香椎に、笑いごとじゃないと睨みつけて、馳那は香椎の手を握り返す。
「……私、あの24になりました」
「…うん…………」
「私の気持ち、きちんと本気だって今度こそ信じていただけましたか?」
いなくなって約5年、そんな月日さえ感じさせない様なサラリとした彼女の物言いに、全てがどうでも良くなって、乾いた笑いが込み上げる。
馳那は今度こそしっかりと香椎を見つめ返してそして掴んだ手を引き、よろけた彼女の身体をしっかりと抱きしめた。
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