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「我ながら、恥ずかしいものを作ってしまった……」
作品から目を逸らして母親に向き直れば、変わらず母親は厭らしい笑みを浮かべていて、更に頬は暑くなる。
「あら、やっと迷いが無くなった、良い作品じゃない?」
言われた言葉が素直に嬉しくて、少しだけ表情を緩めれば、母親は深く溜息をついて歩きだす。
その後を無意識についていきながら、向かうのは入口の方で恐る恐る中の様子を窺っている、香椎の所。
「母さん安心したわぁ」
「何が……」
「真茅はあんなんだから、美味い事やって結婚して、父さんの後をついでいるけど、
あんたは融通の利かない子だから……このまま延々と独りで老いていくのかと思ったら…母さん心配で心配で…
近くで好意を寄せる子にも見向きもしないんだから…」
「……は?!」
「……やーまーぶーき」
「はぁ?!」
あえてなのか、おちゃらけて言った母親に、慌てて言われた名前の持ち主をチラリ盗み見ると、心配そうに此方を窺っている。
その目は確かに母親の言う様に自分に対する好意のこもった視線で、馳那は慌てて視線を前へと戻す。
「気付かなかった……」
「あんた、自分以外の気持にも鈍感だからねぇ……」
呆れた様に溜息をつく母親に返す言葉も無く、馳那は居心地悪そうに視線を伏せて、ただその後を付いていく。
「あんた、一生気付かないフリしなさいよ。…応えられないんだから」
「……わかってるよ…」
時折、母親に気付いた門下が声を掛けてくるのに、返事を返しながら歩いていく母親の後をトボトボと付いていきながら、視線を上げると、不安そうな顔をした3つの顔と視線が絡んで馳那はやんわりと微笑んだ。
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