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「すみませんっっ!
私、馳那を困らせて…………勝手なこと………」
「あら、どうせ先に手を出したのこの子でしょ?
謝らなきゃいけないのはこちらの方よ?
この子、人の気持ちには鈍感なくせに、節操だけはないから……」
必死で頭を下げる香椎をさらりとかわしながら、溜め息をついて睨み付けてくる母親に、やはり返す言葉がなくて、馳那は決まり悪く視線を流す。
「…………い、いつからお気づきで………?」
「『迷ってる………?
ちゃんと馳那は相談に乗ってくれてるの?』」
「……………っっ?!」
「…って声をかけたときには、既に?」
戸惑う香椎に問われれば、母親は人差し指を顎に当てながら、その時の言葉を思い出すように口にして、更に顔を赤面させた香椎にそっと手を伸ばした。
思い当たる節があるのか、その言葉に香椎は恐る恐る馳那の母親に視線を向けて、伸びてきた手にビクリと肩を震わせた。
「まぁ、あのときは3ヶ月って所かしら?」
「…………っっ」
「必死に隠してるようだったから……、私教師でもないし?
第一、その原因を作ったのは教師の我が息子だったし?
そっと見守ってたけど、まさか香椎ちゃんが消えちゃうなんて思わなかったから、その時は少しだけ心配したわ」
「………………ごめんなさい…」
「良いのよ。
お陰で馳那は私のところに来てくれから、香椎ちゃんのお手柄。
それに、余裕かましておいて、まんまと貴女に逃げられて落ち込んでる息子を見るのもなかなかに愉快だったわ」
「母さん!!」
慌てた馳那の様子に、母親は尚愉快そうに微笑んで、伸ばした手を香椎の頭に乗せる。
そのまま優しく撫でて、「無事でよかった」と心の底から呟いた。
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