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「さぁて、ここは私が仕切るからもう良いわ。
あんた達は帰んなさい」
門下生達が忙しそうに会場内を右往左往しているのを尻目に、母親は追い払うように手をふる。
「…良いの?」
聞けば、彼女は満足そうに、会場の中央を飾る馳那の作品を親指で指して、にんまりと微笑んだ。
「まぁ、アレのご褒美ね。
最近は色々任されてくれてたし、母さんからの結婚祝い!!」
「母さん!!!!!」
最後はからかうように、耳打ちした彼女に、再び頬に熱が集まって、馳那は母親を追い払うようにその背を押す。
「ほほほほほほほ」
その息子の様子に、母親は袖で口許を隠しながら盛大に笑い、後ろ手で手を降ると、門下生の呼ぶ声に空返事をし、さっさとその場を離れていった。
「真茅お兄様の性格は、お母様譲りでしたのね」
一気に静かになった周囲に、香椎は苦笑しながら呟いて、その声を聞いた馳那が、さらに疲れたように溜め息をはく。
この場に居て、何も作業を手伝わない両流派の跡取りにそろそろ周囲の門下達の視線が痛くなってきたことに気付く。
「出ようか……」
せっかくもらった休みを無駄にする訳にもいかず、香椎を促せば、頷いてくれる彼女に安堵して、逃げるようにしてその場を離れた。
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