華やかな闇

2/22
前へ
/498ページ
次へ
 華やかな闇と言う存在を、彼はその日、初めて目にした。  その日、リチャード・ハリスは深夜を大きく過ぎた時刻に帰宅した。くたくたに疲れ、今にも倒れそうな体を無理に引きずり、やっとたどり着いた安普請のフラットの二階、そこが彼の城だった。  ハリスは、私立探偵として数々の事件に関わり、多くの手柄を立ててきていた。近頃、当世一の名探偵として世間に認知されている彼が住むには、そのフラットは余りにもみすぼらしく、一方で、体面を取り繕わず、着の身着のままの態度を貫き通す彼をよく知る人物からすれば、さもありなんという感想を抱かせる場所だった。
/498ページ

最初のコメントを投稿しよう!

180人が本棚に入れています
本棚に追加