君よ、こっちを見てくれるか

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…… 私は、気がついたら、そのふわふわの頭を引き寄せて、 恵々子を抱き締めていた。 変なことを考えてはいなかった、と思う。 ただ、気がついたら体が勝手に動いていた。 照れは、なかった。 恵々子に悪いとは思った。 現に、彼女は顔を真っ赤にして、目を丸くして、混乱している。 でも、そこまで頭が回らない。 恵々子…小さいんだな… なんだかいいにおいもする… ふわふわしてて…あったかくて…可愛い。 ああ、このまま世界に二人きりで、こうしていられたら、どんなにいいだろう。 そんなことを考えていると、 腕の中で恵々子がか細い声をあげた。 「あ…あの…小平太先輩…?」 ちょっとおどおどしている。 まぁ、それもそうだろうが。 でも、そんなちょっと困った顔もまた可愛らしく、私はもっとそれが見たくて、腕に力を込めた。 ギュッ 「…えぇえっ…あの…先輩、どうかしたのですか…?」 相変わらず、何もわかっていないようだ。 ここまでしてるというのに。 ただ、驚いたように私に尋ねるだけ… 壊したい。その無垢な表情を。 彼女に他に好きなやつがいようが、構うものか。 わからないのなら、わからせてやろう。 私は、もう苦しみからはたえられないよ、恵々子… …すまんな… 私は恵々子を抱いたまま、 ぽつりぽつりと語り始めた。 「……愛する人が、いるんだ。」 恵々子は静かに私の声に耳をかたむける。
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