295人が本棚に入れています
本棚に追加
にゃんにゃんは意地っ張りだと思う。
自分で言ったくせに涙を堪えてる私を見て、にゃんにゃんは目をただ細めただけだった。
悲しくて、寂しくて、絶望した様な。
「優ちゃんじゃない……」
私を見つめて、にゃんにゃんは悲しそうに呟いた。
私が好きな優ちゃんは、そんなこと言わない。……
グサリと、痛いところを突かれた。私の目からは、大粒の涙が流れた。
だって……、
"私達の恋愛"と"秋葉原家の今後"。
そんな2つを天秤にかけられて、長女様の専属執事頭の身で首を横に振れる訳がない。私は身を引く他に選択肢は無い。
「にゃんにゃんは、私の恋人である前にお嬢様で、秋葉原家のご長女様で……」
「違うよ、そんなんじゃなくて」
にゃんにゃんは私に背を向けた。
肩が震えてる。栗毛色の美しい髪もかすかに揺れている。
涙を流しているかどうかは、私には見えない。
何せ、にゃんにゃんは頑固である。
「そんなことぜーんぶ無しでさ、優ちゃんはさ……」
「……、私を愛してた?」
……そんな質問、しないで。
私はただそう言い残して、部屋を出た。
そんなことあるはずないのだから、にゃんにゃんがただの女のコなんてあるはずないのだから。
空想の夢物語を見たって、悲しいだけで。
ほら、アイツの軽やかな足音が近づいて来るだけで。
……肩にかすかな重み。ふわっと香る香水は、気持ち悪いほどに甘ったるい。
「私のニャロちゃんを、泣かせないでくれる?」
勝ち誇った笑みを私に向けて、奴は部屋に入って行った。
私に止める権利は無い。
扉の前で深く一礼して、私はくるりと方向を変えた。
赤い絨毯の長い廊下、先が見えない。
軽く目をこすると、涙が視界を遮っていたのだと気付いた。
「…これで良かったんだ。」
苦笑混じりに、私は涙を拭った。
私は初めて、愛する人のために自分を捨てる。
<私が思う、究極の愛の答え。fin>
最初のコメントを投稿しよう!