名前

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いた。 昨日と同じように、 綺麗な髪を風になびかせながら。 彼女は僕に気が付いていない。 彼女は、その場から、 さらに、もっと奥に進もうとしていた。 「ね、ねぇ!」 思い切って、声をかけてみた。 彼女は立ち止まり、こちらを向く。 「あ…、あの、えと、昨日…、昨日もここにいたよね?」 彼女に反応はない。 「あー、…ごめん。その、昨日…泣いて…た?」 やっぱり反応はない。 彼女は、ただこっちを見ているだけだ。 「泣いてない。」 「え?」 「泣いてない。泣けないから。」 突然の答えにうまく反応できなかった。 彼女は前を向くと、奥に行こうとする。 「あ、まって!」 彼女は無表情でふたたび振り返った。 「あのさ、名前、名前教えて。」 彼女はなぜか考えた後、 「草。」 ……。 「…く…さ?」 「草。名前。」 草……。 「そっか。あ、僕は辰已英彦。あの、また、明日もいる?」 「……。」 彼女…、草は無言でどこかへ行ってしまった。 まぁ、知らない人に、いきなり声かけられたらね…。
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