一話 旅立ち

6/20

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
「何寝惚けた事言ってるのよ?カイン。 鍛練で手加減したらただの遊びになっちゃうじゃない! 遊びじゃないのよ?鍛練は!」 その言い方に怒りは見られず、レイミーは笑みを浮かべていた 地を踏む足もまた軽快なステップで、桃色をした花柄模様のリボンで結ばれた、長くて綺麗な茶髪が嬉しそうに踊っている 彼女自身、自覚は無いのだろうが、楽しみと言う感情を体全体で体現していた 三歩程後ろを歩いているカインの方に時折振り返り会話をしながら家路を歩く 今の様子を見る限りでは先程の事はもう気にしていないようだ 「まぁ、確かにレイミーの言う通りだけどね」 カインは溜め息混じりでそう言っが、暖かな笑みを浮かべて楽しそうに小躍りしながら歩く幼馴染みの後ろ姿を眺めていた 二人の間に漂う空気はどことなく恋人同士のそれを感じさせる こうして家に着くまでの間、心地良く穏やかな時間が過ぎて行くのだった 所変わり、ここは小さな山奥の村には不釣り合いな大きさの広場 そこには各々が得意とする得物を構えて相対する二人の少年少女がいた 自分の身長と同じ位の木製の棍の先を相手側の地面に向け、右足を前にして眼前の少年を鋭く見据えている少女は頭の上をリボンで結んだポニーテールが特徴のレイミーである 対して、体を横向きにして木で作られた剣を右手で持ち、切っ先をレイミーに向けて、重心を右足に置き、無表情で相手を見据えているさらさらで長めの黒髪の少年はカインだ いつもならラナンが二人の試合に立ち会っているのだが、聞く所によると今日は家の仕事が忙しいらしく両親の手伝いをしているそうだ 二人は数十メートル程の距離を開けて、睨み合っている 空気は重く、気を抜けば一瞬にして負ける…… そんな風に思わせる雰囲気がそこにはあった 長く続くかと思われた均衡状態は先に動いたカインによって破られた 「ふっ!」 カインは小さく息を吐くと地を蹴り、素早く数メートル先にいるレイミーへ接近を試みる 「はっ!」 カインが動いたのを見て、レイミーも彼を向かい打つ様に駆け出した 剣と棍では間合いが違う お互いの距離が近付いた事で、レイミーの攻撃は届くが、カインのそれはまだ少し届かない レイミーは武器の間合いのアドバンテージを最大限に活かして攻撃に移れない所を狙い、渾身の突きを放った
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加