一話 旅立ち

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レイミーの放った渾身の突きは迫るカインの右肩を正確に捉えている 木で作られた棍とはいえ当たると無傷では済まない程の威力がある カインはレイミーの突きが当たる直前まで引き付け、右肩を少し捻ると言う最小限の動きでレイミーの渾身の突きを避けた 「うわわっ!」 渾身の突きを避けたカインは木剣で棍に少しの力を加えた するとレイミーは体制を崩してしまい、声が漏れた レイミーの一瞬の隙にカインの目が光る 棍は間合いが長いのが利点ではあるが、その長さ故に超接近戦には向かないのだ 「はっ!」 カインは体制を崩したレイミーに対し、短い気合いを入れて容赦なく剣を上段から縦に降り下ろした 素人が相手ならこれで一本勝ちだが、相手は何年もの間、共に鍛練してきたレイミーである お互いに今回と同じ状況になったのは一度や二度ではない レイミーは崩れた体制のまま、棍を地面に突き刺し、体を棍の後ろに潜り込ませてカインの鋭い上段の降り下ろしを防いだ そして、棍を手前に引き寄せ、受け止めた剣を地面へと流す 「うっ!」 剣を地面へと誘導されたカインは前のめりになってしまい、無防備となった レイミーはそこへ地面に突き刺したまま棍を降り下ろす 棍が頭上に迫る中、カインは体を左側に向けながら浮いた右足に力を込め、地を踏むと同時に凄い跳躍で後退し、レイミーと距離を取った 対象を失った棍は先程と違う側の穂先が地面に突き刺さる結果に終わる 距離が開いた事で先程の攻防の中で乱れた息を整えながら地面から棍を抜き、構え直してレイミーが口を開いた 「…はぁ、また強くなったね、カイン!」 レイミーはまるで弟の成長を喜ぶ姉の様な笑顔を浮かべた しかし、カインはすぐに返事をしなかった 否、出来なかったのだろう カインもレイミーと同様、息切れしているようだ 「…まぁ……それは……ねぇ。 毎日試合っていれば……強くなると……思うよ」 カインの息切れはレイミーよりも重い様子で話の合間にも乱れた呼吸が確認出来た 「さて、様子見はここまで。 そろそろお互い、本気を出しましょ?」 カインがある程度落ち着いたのを見計らい、レイミーが声を掛けた 剣を上げ、構え直したカインもそれに小さく頷く 「そうだね。……レイミー」 「ん?」 短く返答するレイミーにカインはいつもの楽しげな笑顔を見せた 「今日こそは勝たせて貰うよ?」
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