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訳のわからないことをいいだした先輩に、涙目になりながらも薪束を担いで厨房へ。
「つか、さっきからお前しか来ないヨ。もう1人のバカはどうしたヨ」
「えっとぉ……」
入るなり殺気じみた視線とともに問い詰められる僕。
料理長も外人さんらしく、言葉も片言でしゃべり方も起伏のない平坦なイントネーションなのに、何故かそれが怖い。
「隠すとためにならないヨ」
平坦な言葉と鬼気迫る表情のギャップに、突きつけられた包丁の冷たさでもう泣きそう。
というか目尻に涙が溜まるのがわかる。
「先輩なら資材倉庫で寝てます」
「ぶっ殺すヨ」
殺人予告とともに厨房を飛び出す料理長。
そして資材倉庫の方から聞こえてくる先輩とおぼしき悲鳴。
そしてそれらをバックに薪束を所定の位置に運び込む僕。
「いつも大変だね」
苦笑とともに話しかけてきた副店長に曖昧な笑みを返すと、次の薪束求めて資材倉庫に戻る。
先輩はどうなっただろうか?
そんなことを思いながら扉を開けると
「死ねヨー。いいから死んどけヨー。バカは死ななきゃ治んないんだヨー」
「ふざけんなっ!このクソシェフめっ!!俺の眠りを妨げるんじゃねぇよ!」
床に寝転ぶ先輩の上に馬乗りになって包丁を突き立てようとする料理長と、それを必死に食い止める先輩の姿。
かかわり合いになりたくない僕は素早く次の薪束を担ぐと、足早に資材倉庫を立ち去ろうと
「あ、おい後輩!助けろ、憧れの俺様がピンチだぞっ!?」
「頼むから死んでくれヨー。お前が死ねばワタシハッピーなんだヨー」
した僕に必死の形相で助けを求める先輩。
しかし僕は聞こえないふりをして資材倉庫から抜け出し、まだ格闘している先輩にぽつりと呟く。
「いまの姿にはさすがに憧れませんよ……」
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