0人が本棚に入れています
本棚に追加
そこは、とても真っ暗な闇の中だった。
先が見えない闇。
居続けるだけで精神が狂い、自我が崩壊し、醜い化け物に変貌してしまうという、呪われた空間。
“境界”と呼ばれるそんな場所で、体を闇に拘束されている少女がいた。
肩から上は見えているが、それより下は闇の中に捕まっていて、外からは見えない。
少女は、今にも泣き出しそうな顔を少し上げて、目の前で涙を零す少年を見る。
少年は、少女が驚くくらいに泣き腫らして、下唇を噛み締めて泣いている。
……そんなに噛んだら、血が出ちゃうじゃないか。
泣きすぎだよ。……って言っても多分、君はもっと泣いてしまうんだろうな。君はそういうやつだ。
……だから少女は、
「……もう、いいよ」
今の自分に出来る限りの、いつも通りの表情で、
「君はここを出るんだ」
「えっ」
少年が驚いて顔を上げる。
大粒の涙が彼の細い頬を伝う。
こんなに痩せこけて……
君にはずいぶん迷惑をかけた。
それは、ぼくの自己満足でしかないけれど……
それでも君は、ぼくについて来てくれた。
……だから、
「今の君の力じゃ、ぼくをここから救い出すことはできない」
「そんなの、やってみなきゃ……!」
少年の悲痛な叫びを遮り、
「“今は”……の話だよ」
それに、少年は驚きの表情を浮かべ、固まる。
「君がこれから、ぼくのためにもう少しだけがんばってくれたら、ぼくをここから救い出すことは可能なんだよ」
少年の体が緊張する。
そしてすぐに、
「その方法は!?」
すでに、少年の涙は止まっていた。
少女は、それを見て。
自分を救うために真っ直ぐな少年の瞳を見て、少女は……
「その方法は――」
──少女は、その残酷な願いを告げた。
最初のコメントを投稿しよう!