日陰のプロローグ

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 そこは、とても真っ暗な闇の中だった。  先が見えない闇。  居続けるだけで精神が狂い、自我が崩壊し、醜い化け物に変貌してしまうという、呪われた空間。  “境界”と呼ばれるそんな場所で、体を闇に拘束されている少女がいた。  肩から上は見えているが、それより下は闇の中に捕まっていて、外からは見えない。  少女は、今にも泣き出しそうな顔を少し上げて、目の前で涙を零す少年を見る。  少年は、少女が驚くくらいに泣き腫らして、下唇を噛み締めて泣いている。  ……そんなに噛んだら、血が出ちゃうじゃないか。  泣きすぎだよ。……って言っても多分、君はもっと泣いてしまうんだろうな。君はそういうやつだ。  ……だから少女は、 「……もう、いいよ」  今の自分に出来る限りの、いつも通りの表情で、 「君はここを出るんだ」 「えっ」  少年が驚いて顔を上げる。  大粒の涙が彼の細い頬を伝う。  こんなに痩せこけて……  君にはずいぶん迷惑をかけた。  それは、ぼくの自己満足でしかないけれど……  それでも君は、ぼくについて来てくれた。  ……だから、 「今の君の力じゃ、ぼくをここから救い出すことはできない」 「そんなの、やってみなきゃ……!」  少年の悲痛な叫びを遮り、 「“今は”……の話だよ」  それに、少年は驚きの表情を浮かべ、固まる。 「君がこれから、ぼくのためにもう少しだけがんばってくれたら、ぼくをここから救い出すことは可能なんだよ」  少年の体が緊張する。  そしてすぐに、 「その方法は!?」  すでに、少年の涙は止まっていた。  少女は、それを見て。  自分を救うために真っ直ぐな少年の瞳を見て、少女は…… 「その方法は――」  ──少女は、その残酷な願いを告げた。
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