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雄二は、呑気に口笛を吹きながら外階段を降りていく。
毎度おなじみの、映画「ロッキー」のテーマ曲だ。
階段を一段一段降りていく雄二の足音が、静まりかえった未明の虚空に吸い込まれていく。
そんな雄二の背中を見ているうちに、紗季の瞳に、涙が込み上げてきた。
先ほど雄二に感じた、不可解な虚弱さ……
そして今……階段を降りていく雄二の背中を見ているうちに、雄二が、終わりのない階段をどこまでも降りてゆくような錯覚を覚えたのだ。
雄二は、ボクシング中毒者への道を突き進んだ挙げ句、玉砕してしまうのではあるまいか……
そんな思いが脳裏をかすめ、紗季は寒さも忘れ、その場にしゃがみ込んでしまった。
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