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荒川は今日も悠然と流れていた。
まるで、人々の営みを優しく見守るように。
こんな真冬の早朝でも、河川敷を行き交う幾人かの人影が見られる。
犬を散歩させる婦人。
ジョギングに汗を流す、トレーニングウェア姿の学生。
通勤中の、身なりのいい中年サラリーマン。
しかし、人々の姿は、あたかも悠久の大河の引き立て役ででもあるかのようだった。
はるか彼方に、池袋のビル群が小さく見える。
未明の空の下のそれは、まるで小さな森の影のようだ。
東の空は藤色に染まり、光の到来を待ちかねている。
この季節の夜明け前特有の、神秘的な静寂が、流域を支配していた。
その静寂を縫って、雄二の軽快な足音がかすかに聞こえる。
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