82人が本棚に入れています
本棚に追加
.
「すごい声援だな……」
雄二は、まったくの他人事のように呑気につぶやいた。
その声援が、すべて自分に向けられたものであるにもかかわらず。
平成十九年十二月十日、横浜アリーナ。
場内は、割れんばかりの水原コールに包まれていた。
デビュー以来、破竹の十九連続KO勝利。
あっという間に、ボクシング界の寵児にノシ上がった、水原雄二。
今日はいよいよ、雄二が世界バンタム級タイトル戦に挑むのだ。
下馬評では、雄二がチャンピオンを倒し、新チャンピオン誕生……とゆう予想が、圧倒的多数を占めていた。
雄二もまた、己れの勝利を信じて疑わなかった。
爽快な闘志。
十二回目の防衛戦に臨む、老獪なチャンピオンをのむ気迫。
雄二は、その自覚に満足感を覚えていた。
.
最初のコメントを投稿しよう!