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「……ぐはぁッ!!」
雄二は、異様なうめき声と共に跳ね起きた。
隣で寝ていた紗季も、ただならぬ気配を察して目を覚ました。
雄二は息を荒げながら、顔を手でぬぐった。
その虚脱したような顔は、冬だとゆうのに汗にまみれている。
紗季は、心配げに雄二の顔を覗き込んだ。
その、派手な美貌を曇らせて。
2DK、家賃六万八千円の部屋に、暗澹たる空気が立ち込めた。
「……また、あの夢を見た?」
紗季は、雄二の背中をそっとさすってやった。
紗季の言葉も耳に入らぬのか、雄二は呆けたようにうなだれている。
最近、毎晩のように、あの悪夢にうなされているようだ。
あの、五年前のタイトル戦の、悪夢に……。
「クソッタレがァ……」
雄二の身体から、重苦しいつぶやきがこぼれ落ちた。
自分自身への、憤りの言葉が……。
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