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試合は、わずか一ラウンドにして決した。
しかも……チャンピオンの放った、たった二発のパンチで。
左ジャブと右フック……稲妻のようなその二発のパンチで、雄二はリングに沈められたのだ。
倒れる瞬間、雄二は確かに聞いた。
今まで根拠のない自信だけで勝ち続けてきた自分……
そのアイデンティティーが、無惨に崩れ落ちていく音を……。
あの敗北によって失ったモノ、それは何だろう。
それ以降雄二は、加速度的にボクサーとしての精彩を欠いていった。
「瓦解」と言ってもいいほどの転落ぶり……。
「狂犬」と恐れられたボクサーは、もう何処にもいなかった。
気がつけば……あのタイトル戦から五年……
三十歳、ボクサーとしての進退を考えねばならない年齢になっていた。
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