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「……それだけです」
魅子がそう断言するなら、そうなのだろう。
「アリア、前の奴は任せた。俺はファーストクラスの方をやる」
「分かった」
俺の出した指示にアリアはすぐに頷く。
「兄さん」
座席を離れ様とした俺に、魅子が声を掛けてきた。
「気を付けて」
眠そうな目を心配そうに細めた魅子に、俺は親指立ててニッと笑い掛けた。
※※※
アリアはスーツのポケットから数枚のコインを取り出すと、静かに右手に握り込んだ。
向こうの国で使用していた小銭だった。向こうでもこちらでも、手間を考えれば換金しない様な本当の小銭だ。
魅子から聞いた特徴の奴を視界に納める。
二十代後半から三十代前半の中東系の男性。口髭を生やし、髪は短い。茶色っぽいジャケットを着ている。
……いた。確かに挙動不審に見える。無意味に辺りを見回しているのでアリアが顔を確認出来たけど、頻りに座り直したり、腕時計で時間を確認したり、ジャケットの内ポケットに手を当てている。
やがて、内ポケットに手を突っ込みながらその男が勢い良く立ち上がろうとした次の瞬間、
チィンッ
小さな金属音が機内に響いた。
「ガッ!?」
その男は自分に何が起こったのか、理解出来なかったのだろう。
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