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「これが日本の鍋?」
俺が運んできた鍋を覗き込む女が首を微かに傾げた。
肩までの黒髪を今は纏めてふたつの団子状にしている。着ている服は深紅のチャイナドレス……そう、先程の発言から薄々分かると思うが、この女は日本人ではない。中国人だ。
王麗華(おうれいか)。年齢不詳。中国最大のマフィアがある目的で日本に送り込んできたスパイ兼暗殺者だ。
「この料理……なんて名前ですの?」
「……ちゃんこ鍋?」
「何で疑問系ですのよ」
フレームの無い眼鏡を上げながら、細かい事を一々気にしているこの女が日下部はるみ(くさかべはるみ)で、警視総監様の一人娘様だ。
「あらあらぁ、これは取っても美味しそうですねぇ」
間の抜けたしゃべり方をするこの金髪女はココア・バレンタイン。まぁ、多分偽名だろう。当然年齢も不詳。
折り畳みナイフから大陸弾道ミサイルまで各種取り扱う武器商人……まぁ、『死の商人』ってやつだ。
「弟の手料理。こんなに性よ……食欲が満たされる物はないよ」
「料理で性欲が満たされるなら、正式に脳の検査を受けろ」
相変わらず冗談だか本気だか分からない事を言い出す姉だ。
小早川アリア……悲しいかな、俺の姉貴だ。金髪碧眼は母親譲りで、母親と瓜二つの容姿をしている。冗談抜きで、いまだに母親と姉妹だと間違われる。
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