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(――んだけど…)
幼い頃、父には力の扱いが雑だと言われたことがあった。だが、ここまでとは――。
己の無能さに頭を抱えながら、レンはため息をつく。
(しょうがない。少し歩くか)
そうして、もと来たであろう道へ――つまり、村のある方向へと歩き出そうとして――すぐに、足を止めることとなった。
(…なんだ?)
聞こえたのは、唄。優しい、けれど、すごく哀しげな――。
それは、女性の声。そして、どこか聞き覚えのある、少女のものだった。
その子は誰だったのか。
それを思い出す前に、背後の物音に思考をかき消されてしまう。
驚いて振り向くと、レンを凝視する、見たことのない青年と目が合った。
(いや…。あの人が見ているのは、僕じゃない)
レンは首を振って、そう思い直す。
何故なら、今の彼は、人の目に映らない、人ならぬ存在なのだから。
生き霊、と人々は呼ぶのだろうか。そもそも、生きているのか死んでいるのかも定かでないだろうから、むしろ、幽霊と思われるのかもしれない。
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