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慌てた声が後ろから飛んでくるが、そんなのは知ったことではない。
そんな中、彼の胸を過るのは、懐かしい父の言葉。
(見つかってはいけない…誰にも。見つかれば、僕は…)
「おい、待てよ!」
いつの間に追い付いたのか、青年に前に回り込まれて、あっさりと捕まってしまう。
「は、放してくださいっ」
「んなことするわけねーだろ!!やっぱり、お前…!!」
青年が声を荒げて、何かを言いかけた、そのときだ。
急に、レンの視界が歪み、思考に霞がかかったみたいに何も考えられなくなった。体を強く揺さぶられ、脳裏に声が反響する。
何も考えずとも、分かる。――“戻る”のだ。
その事実に、彼は無意識に安堵の笑みを浮かべていた。
焦りを浮かべた青年の顔がわずかに見える。
(ごめんなさい…そして、さようなら)
レンは心の中で謝罪と別れを告げながら、闇に身を委ねようとする。
そうして。
ゆっくりと目を閉じた彼の体は、跡形もなく崩れ去り――そこで、レンの意識は途切れた。
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