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女は暇を潰すかのように、先程の名刺を眺めている。相変わらず、わけのわからない人物である。
「……どこにいるんだよ」
徹平は、は? と素頓狂な声をあげた。
どこって、すぐ目の前にいるじゃないか。
酒井は警戒しつつ辺りを見回し、この部屋にはいないみたいだけど、と告げる。
「いるだろ、そこに」
「どこに」
「そこだよ!」
指差した方向を、酒井は熱心に見つめる。
だが「お前ふざけてる?」と素っ気なく言われる始末。
「ふざけてない」
「じゃあ幽霊じゃねえの。怖いから出てくわ。呪われたくねえし」
入るときと同じように、すたすた歩いていく後ろ姿を見て、愕然とした。
俺がおかしいの? あいつがおかしいの?
わからない。何もわからない。
「基本的に、執行者にしか見えないようになっているんです。例外もいますけどね。立ち話も何ですし、さぁ座って座って」
部屋の持ち主であるはずの自分が、こんな風に扱われる理由もわからない。
「失恋のショックであなたの頭がおかしくなったわけでも、亡霊が呪いに来たわけでもありません。混乱するのも当然ですが、まずは落ち着いて話をしましょう」
「だから、何なんですかあんた」
「何って、愛の精霊です」
もはや突っ込むのも面倒になった。
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