CASE‐01

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     女は暇を潰すかのように、先程の名刺を眺めている。相変わらず、わけのわからない人物である。 「……どこにいるんだよ」  徹平は、は? と素頓狂な声をあげた。  どこって、すぐ目の前にいるじゃないか。  酒井は警戒しつつ辺りを見回し、この部屋にはいないみたいだけど、と告げる。 「いるだろ、そこに」 「どこに」 「そこだよ!」  指差した方向を、酒井は熱心に見つめる。  だが「お前ふざけてる?」と素っ気なく言われる始末。 「ふざけてない」 「じゃあ幽霊じゃねえの。怖いから出てくわ。呪われたくねえし」  入るときと同じように、すたすた歩いていく後ろ姿を見て、愕然とした。  俺がおかしいの? あいつがおかしいの?  わからない。何もわからない。 「基本的に、執行者にしか見えないようになっているんです。例外もいますけどね。立ち話も何ですし、さぁ座って座って」  部屋の持ち主であるはずの自分が、こんな風に扱われる理由もわからない。 「失恋のショックであなたの頭がおかしくなったわけでも、亡霊が呪いに来たわけでもありません。混乱するのも当然ですが、まずは落ち着いて話をしましょう」 「だから、何なんですかあんた」 「何って、愛の精霊です」  もはや突っ込むのも面倒になった。    
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