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引っ越し業者のトラックに揺られること数時間、ぼくは生まれ故郷である瀬茅(せがや)市に到着した。
この街は全国的に豪雪地帯として有名で、毎年盛大な雪まつりが開催されるらしい。さすがにもうその名残は無いけれど、冬になるとたくさんの観光客であふれかえるらしい。
ブブブ……ブブブ……。
「ん……電話?」
ポケットから太ももに、振動が伝わっていく。
「なんだ、姉さんか。――もしもし?」
『あ、海斗(カイト)? もう着いた?』
通話口から、間延びした女性の声がした。
「うん、いま着いたとこ。どうしたの?」
『いや、海斗がちゃんと着いたかどうか心配だねってお母さんと話しててさ、ちょっと電話してみたんだ。それだけ』
「うん、大丈夫、ちゃんと着いたよ」
『そか。じゃ、大変だろうけど、一人暮らし、頑張ってね。なんかあったら相談にのるから』
「……うん。ありがと」
『じゃね、ばいばい』
「うん、じゃあ」
ぼくがそう言うと、電話は切れた。
一人暮らし――そう、一人暮らし。これは、ぼくが決めたこと。
高校進学を機に、ぼくは家を出た。
……別に家庭環境に問題があったわけじゃない。でも、ぼくはどうしても、この街に来たかった。
生まれ故郷である、この瀬茅市。小学校一年までこの街で過ごしたけれど、父さんの仕事の都合で引っ越してしまった、この街。
約束を果たせないまま引っ越してしまった、この街。
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