第一話

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「――おっと、荷物の整理しないと」  いつまでもいろいろ考えている場合じゃないな。今日から、ぼくは一人で生活していかないといけないんだ。  目の前にあるマンション。決して高校生が一人で住むようなマンションではなく、普通の家族向けのマンションだ。 『なに、遠慮するな。せっかくの一人暮らしなんだ、広いほうがいいだろう?』と、勝手に父が契約してしまったのだ。当然ぼくに家賃が払えるはずもなく、両親が家賃を出している。ぼくが気を使うから、と詳しい値段は知らないが、決して安くはないだろう。 「親孝行しないとなぁ……」  ぼやきながら、エントランスに入る。管理人に事情を話し、ぼくの部屋の鍵を受け取る。案内しようかと言われたが、ぼくはそれを断った。特に理由は無い。ただ、なんとなく一人で行ってみたかっただけ。 「八階、と……」  ぼくの部屋は、802号室らしい。エレベーターに乗り込み、八のボタンを押す。すると、ゆっくりとドアが閉まっていく。 「あぁ待って待って! ボクも乗るよ!」  その声を聞き、ぼくは反射的に“開く”のボタンを押していた。 「はぁ、はぁ……ありがと」  息を切らしながらエレベーターに乗り込んできたのは、まるで絵画から飛び出してきたような、そんなひとだった。すらりと長い脚に、中性的に整った顔立ち。鬱陶しくないほどの長さのつやつやした黒髪……。そんな、ひとだった。
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