5人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
「いえ……何階ですか?」
「あ、八階なんだけど……ってあれ、もう押してある?」
機械的な音とともに、エレベーターのドアが閉まり、同時に上昇を始めた。
「それ、ぼくです。ぼくも八階なので」
「え、そうなの? ボク、結構長いこと住んでるけど会ったことないよね?」
「あ、今日引っ越してきました。802号室の杉原(スギハラ)です。杉原海斗」
そう言って、ぼくは3、4……と順調に数をふやしていくデジタル数字をちらりと見た。
「じゃあお隣さんだね」
「……え?」
「ボクは803号室の氷上朱羽(ヒカミ シュウ)。朱色の羽って書くんだ。よろしくね」
氷上朱羽さんか……。さっきも思ったけど、綺麗な人だな……。名前からして男の人だろうけど、多分その辺りを歩いてる女の人よりよっぽど綺麗だと思う。
「海斗くんは高校生?」
「あ、はい、そうです。今年から」
「へぇ、じゃあ高校デビューだ。がんばって」
そういうと、氷上さんはぼくにウインクをした。とてもきまっていて、ぼくは少し照れてうつむいてしまった。
――チーン、となんだか間抜けな音をたてて、エレベーターが八階に着いたことを告げる。
「じゃね、海斗くん」
そういって、朱羽さんはエレベーターを出てすぐの扉を開けた。表札には「803 HIKAMI」とある。
「はい。氷上さん。また後で、改めて挨拶に行きます」
「うん、待ってるよ。――あ、それと、ボクの事は朱羽でいいからね」
そう言って氷上さ――いや、朱羽さんはドアを閉めた。
その隣、802号室では、引っ越し業者がぼくの荷物をせっせと運んでいた。
最初のコメントを投稿しよう!