第一話

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「いえ……何階ですか?」 「あ、八階なんだけど……ってあれ、もう押してある?」  機械的な音とともに、エレベーターのドアが閉まり、同時に上昇を始めた。 「それ、ぼくです。ぼくも八階なので」 「え、そうなの? ボク、結構長いこと住んでるけど会ったことないよね?」 「あ、今日引っ越してきました。802号室の杉原(スギハラ)です。杉原海斗」  そう言って、ぼくは3、4……と順調に数をふやしていくデジタル数字をちらりと見た。 「じゃあお隣さんだね」 「……え?」 「ボクは803号室の氷上朱羽(ヒカミ シュウ)。朱色の羽って書くんだ。よろしくね」  氷上朱羽さんか……。さっきも思ったけど、綺麗な人だな……。名前からして男の人だろうけど、多分その辺りを歩いてる女の人よりよっぽど綺麗だと思う。 「海斗くんは高校生?」 「あ、はい、そうです。今年から」 「へぇ、じゃあ高校デビューだ。がんばって」  そういうと、氷上さんはぼくにウインクをした。とてもきまっていて、ぼくは少し照れてうつむいてしまった。  ――チーン、となんだか間抜けな音をたてて、エレベーターが八階に着いたことを告げる。 「じゃね、海斗くん」  そういって、朱羽さんはエレベーターを出てすぐの扉を開けた。表札には「803 HIKAMI」とある。 「はい。氷上さん。また後で、改めて挨拶に行きます」 「うん、待ってるよ。――あ、それと、ボクの事は朱羽でいいからね」  そう言って氷上さ――いや、朱羽さんはドアを閉めた。 その隣、802号室では、引っ越し業者がぼくの荷物をせっせと運んでいた。
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