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失礼しますの声と共に開けられたドア
所長の前と俺の前に差し出されたコーヒー
顔は見ず会釈だけで返した
一瞬、彼女の手が震えた気がしたのは気のせいだろうか
「小野坂さん、遅刻してすみませんでした」
彼に頭を下げる彼女の横顔は見えない
「大丈夫なのか?
無理をしなくても良かったのに」
「はい、本当に大丈夫です
少し落ち着きましたから」
一瞬、彼が優しく微笑んで俺と視線が合う
「朝礼にいなかったから紹介するよ
今日から本社から移動になった吉野くんだ
彼女は営業事務の藤原さん、彼女には仕事面で世話になるから宜しく頼むな」
立ち上がり彼女と対峙する
ふじわら…藤原悠里…
…ゆうり…
何度、この名を呼んだんだろう
ずっと宝物だった彼女の名前
大きな瞳が戸惑いを隠せず更に大きく開かれ揺れていた
「どうした、知り合いか…」
「あっ、いえ、宜しくお願いします」
冷静さを保つようにわざとゆっくりお辞儀をして、宜しくお願いしますと言葉にした
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