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「ほらほら、こしあんぱんと牛乳。今日まだ何も食べていないでしょう、コンビニで買ってきたので食べた方がいいと思いますよ。俺の奢りです」
そう言うと彼は自分のスーツの右ポケットから潰れたこしあんぱんを、左ポケットから歪んだ牛乳パックを取り出した。先輩後輩時代から思っていたが、こいつはなんでもかんでもポケットに入れる癖がある。
「ありがたくもらっておくよ、社長さん」
私がそう言って潰れたあんぱんと歪んだ牛乳パックを受け取ると彼は性格の割には精悍そうな顔を緩ませて微笑んだ。
「あんぱんと牛乳、そして加え煙草に屋上。刑事の張り込み現場みたいな気分を存分に味わってください」
確かに、刑事ドラマなどによくありそうな感じだとは思ったが、意図的にやっているとは思わなかった。昔、彼はドラマは見ないと言っていたからだ。
非現実なドラマより、現実の方が余程奇怪で面白い、と。
「高岸さん」
不意に、彼は緩ませていた頬を引き締め緊張した面持ちと低い声色で私に声をかけてきた。
「呪いって信じますか?」
それはあまりにも馬鹿馬鹿しい問いかけだった。
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