Chapter 0 読書嫌いの男

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俺は、読書というものが嫌いだ。 何を唐突に、と思われるかもしれないが、いっそ活字アレルギーと自称してもいいほどに、字を読む行為が嫌いである。 苦手ではなく嫌いと言い張るのは、必要に迫られれば読まないこともない、という曖昧な基準によるのだが。 とにもかくにも、俺は読書と直結する存在、つまるところ本というものが嫌いだ。 何故嫌いなのか、と人は聞く。 その問いは、至極当たり前のものだ。理由は簡単、知識とは力であり、知識を得る媒体である本とは宝という常識が、この世の中を覆い尽くしているからである。 常識とは恐ろしい。それが尊いものだと皆が口を揃えて言うものだから、誰もがそれを素晴らしいと褒め称える。 そして誰もが続けてこう言うのだ、 「お前は変な奴だな」と。 常識とは万物を図る基準であり、そして正義にも似た共通思想である。 面倒な話だが、常識的に考えて変な奴だと認定されてしまうと、もうこれがどうしようもないのだ。俺が何を言おうと、変人の戯言として流されてしまうわけで、常識外れの人間の思考回路など、誰も理解しようとしないのである。 さて、愚痴はこのあたりにしておいて。その自称するのもどうかと思われる変人の称号を得た俺は、現在司書として働いている。 矛盾しているかもしれないが、矛盾ではない。 司書とは書を愛する者が就く職業という概念はあっているし、俺が活字アレルギーだという前提条件もあっている。 ならば、何故司書になったのか。
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