HELDENTUM

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一旦謝ってから思いっきり頬を叩いた。 もちろん王様と知っての行為である。 「いってえええ!」 彼は頬を押さえたまま飛び起きた。 僕は部屋の入り口でビクビクしながら頭を下げる。 「ごめんなさい、ごめんなさい!こうするしか…」 こんなこと、お城でやったら即牢屋行きだ。 僕は身を縮めて謝り続ける。 すると大きな手のひらが頭を撫でた。 「クリフは悪くない。悪いのはコイツだ」 「フィリップ様」 「げっ」 そこにいたのは紛れもなく先程お会いしたフィリップ様だった。 そばで母さんがハラハラしながらこちらを見ている。 「お前が遅いから上がらせてもらったぞ」 「フィリップ」 フィリップ様の顔を見て、彼は盛大なため息を吐いた。 困ったように後頭部を掻き上げる。 「……わかった」 その一言を最後に部屋から追い出された。 母さんは僕の部屋なんかで話すのは畏れ多いから、せめて教会へと促したが、二人は聞き入れなかった。 「悪いが話している最中は部屋に近づかないでくれ」 「え?あ、はい」 珍しく真剣な顔で言われたから素直に頷いた。 確かに一般市民に立ち聞きされるわけにはいかない。 大人しく二階に上がり、ベランダでぼんやり外を眺めることにした。 「はぁ……」 この地方は一年を通して寒暖の差がない。 ベランダから見えた風景はのどかで退屈だった。 うららかな陽気がなおさら思考を刈り取っていく。 聞こえるのは波の音と田畑が揺れる葉音だけだ。 朝食もまだの体は夢現で気だるい。 僅かに減ったお腹が時折音を鳴らした。 「まずいまずい」 そんな自分に待ったをかけると、部屋から持ち出してきた教科書とノートを取り出す。 青空の下で宿題をやり始めた。 「…にいちゃ…」 暫くして後からやってきたサムに声を掛けられた。 僕は無視して筆を滑らせる。 集中している時に声は掛けられたくなかったからだ。 サムは暫く立ち尽くす。 彼が今どんな顔をしているのか、見なくても分かった。 対して少し胸の奥が詰まる。 「こーら!!」 するとサムの後ろから母さんが来ていた。 また彼を泣かせようとしていることに気付いたのか、声に怒りを含んでいる。 「何してるの。あなたお兄ちゃんでしょ!」 「…っぅ…」 振り返れば怒った母さんと、しがみ付くサムがいた。 やはり泣きそうな顔をしている。 「今、宿題をしてたんだ!邪魔されたくなかったんだよ!」
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