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母親を味方につけるサムに苛立ってつい声を荒げてしまった。
彼はさらに悲しそうな顔をする。
本当にサムは昔から気が弱いのだ。
「何言ってんだい!朝ご飯が出来たんだよ。食べないのかい?」
「む」
「せっかくサムがお兄ちゃんを呼びに来たのに」
「頼んでない!」
これが俗にいう反抗期というヤツなのだろうか。
つい反論したくなって口から強い言葉が出てしまう。
だが母さんは無視してサムを抱き上げると下へ降りていってしまう。
「なんだよっ」
僕はその場で胡坐をかいた。
素直に後に着いて行くのが面白くなくて、二人が出て行った方をじっと見つめる。
口をヘの字に曲げた。
言いようのない苛立ちが募って皮膚がピリピリしている。
ぎゅるるるるる。
だが、それでも腹が減ってはどうしようもない。
どんなに腹が立っても悔しくても体は正直だ。
仕方がなく立ち上がる。
それが滑稽に見えて情けなかった。
***
「何してんだい!早くしないと冷めちまうよ」
下に降りると何事もなかったように二人が迎えてくれた。
先にご飯を食べている。
「アントン様は?」
辺りを見回した。
彼もまだ朝ごはんを食べていない。
すると母さんは指でキッチンの脇に置かれた二人分の食事を指した。
「朝はいらないみたいよ」
「ふーん」
それほどアントン様とフィリップ様は重要な話をしているのか。
さほど気にせず席に着いた。
タイミング良く焼きたてのパンを籠に乗せてテーブルに置いてくれる。
それを頬張りながらこの後の予定を決めかねていた。
「あ、昼ごはんはクリフが持っていってちょうだい」
「えー」
「さすがに昼ご飯も食べなかったら死んじまうよ」
「やだよ。第一に近寄るなって言われてるし」
あれだけの勇者が朝と昼を抜かしただけで死ぬのだろうか。
そう突っ込みたかったが、またお説教をされては敵わんと口を慎む。
「私が行くよりアンタが行った方がいいでしょうに」
「なんでだよ」
「いいから行きなさい。お兄ちゃんでしょ」
そのお兄ちゃんでしょの意味が分からない。
彼女はサムが産まれてから何かにつけて「お兄ちゃんでしょ」と言う。
確かにだいぶ年は離れているしサムはまだ幼い。
といって全部自分に投げられるのは勘弁願いたかった。
だから余計にサムに対して苛立つのだ。
「いいのよ!絶対に行きなさいね」
「はいはい」
結局母親には勝てずこうなるのがオチだった。
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