HELDENTUM

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僕は投げやりに答えながら卵を口に入れる。 そして腹を満たした。 ――昼。 僕は渋々と母さんから二人前の食事が乗せられたお盆を持つと居間を後にした。 自分の部屋で国のお偉いさんたちが会談しているというだけでバツが悪い。 足取り重く廊下を歩いた。 近づく自分の部屋が今は遠い。 真面目な顔で近づくなと言ったアントン様の顔を思い出した。 それだけで次の一歩が躊躇われる。 「……やっぱやめよう」 僕はお盆を持ったまま踵返した。 何か嫌な予感で胸がざわつく。 そういう時は自分の本能を信じたほうがいいのだ。 それに比べたら母親のお説教など怖くない。 そうして居間に戻ろうとした時だ。 ガチャ―… 自分の背後でドアが開く音がする。 「クリフちょっといいか?」 「え?」 僕の部屋から出てきたのはフィリップ様だ。 真剣な顔で呼び止める。 だから歩き出そうとしていた足を止めた。 動揺してつい困った顔をしてしまう。 気付いたフィリップ様はやんわりと笑った。 「さ、入ってくれ」 「はい…」 その後、部屋に通された僕はお盆を持ったまま部屋に入った。 自宅なのにこの緊張感はなんだろう。 目を泳がせながら絨毯の上に座る。 「あのお昼ご飯です。さすがに朝と昼を抜かしたらお腹が減るだろうって」 「そうか。わざわざありがとう」 テーブルの上に持ってきたパンとスープとサラダを置いた。 フィリップ様は微笑んで手伝いをしてくれる。 思ったより和やかな雰囲気にホッとした。 「……クリフ、それ置いたら出てけ」 「え?」 「お前には関係ない事だ」 アントン様が不意に口を挟んだ。 そのせいで和やかだった部屋の雰囲気が氷のように固まる。 彼はこちらを見ようともせず窓の外を見ていた。 腕を組んだまま動かないで言い放つ。 それは明らかな拒絶だった。 「…いや彼に聞きたい事がある」 「ふざけんな。コイツは無関係だってさっきから言ってんだろーが」 「アントン。少しは黙っていろ。ムキになる方が怪しいぞ」 「…ふん…」 フィリップ様の一言にアントン様は押し黙った。 ムッとしたままそっぽを向いてしまう。 「クリフ、お前はアントンをどう思っている?」 「え!?」 「コイツは親族も妃も居ない。お前ら家族が唯一親しい知り合いと言っても過言ではないだろう」 「あ……」 「お前から見たアントンをどう思う?」 「それは…」 質問の意図が掴めなかった。 なぜそんなことを問うのだろうか?
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