HELDENTUM

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その墓には白い花が添えられている。 「いつもすまん」 「……いえ」 振り返って深く頭を下げる。 僕は小さく答えると首を振った。 このお墓はアントン様のご両親のお墓である。 両親はあの時の戦いに際し、処刑された。 当時は魔王の時代、彼はそれに刃向かう反乱分子以外の何者でもない。 当然アントン様たちだって何度も捕らえられたことがある。 そういった危機のたび、彼らは乗り越えここまで辿り着いたのだ。 しかし両親まで守れなかった。 この村に居た二人は反逆者の血縁者として捕らえられてしまった。 母さんは昔二人にとても可愛がってもらったらしく、幼いころから何度も聞かされた。 アントン様のご両親のこと。 だから母さんがこのお墓の世話を買って出たんだ。 少しでも恩返しが出来るように、と。 「感謝している」 小さなころから母さんに連れられて掃除したりお花を添えたりしているうちに、僕がこの墓のお世話をするようになった。 お花を添えるのも習慣化されている。 それは決して特別なことではなく、当たり前の日常に組み込まれているのだ。 「世話してるのがクリフで良かったよ」 「なんですか、それ」 初めてアントン様と会ったのもこの場所である。 来るたびに思い出す。 あの時のアントン様を。 「分からないなら、いい」 「はぁ?」 アントン様は僕の頭をクシャクシャっと撫でた。 悪戯っ子のようにニヤッと笑う。 「相変わらず風が強えーな」 「当たり前でしょう?目の前が海なんですから」 すぐ側は崖になっている。 心地良く頬を撫でる海風に産毛は揺れた。 生ぬるい風が髪の毛を靡かせてさらおうとする。 つむじ風が僕らの間を流れていった。 アントン様の髪の毛が揺れている。 蜂蜜のように透明感のある髪が青空に映えて綺麗だった。 チラッと横顔をのぞき見て手を合わせる。 するとアントン様も一緒になって手を合わせていた。 さざらうような波の音がいつまでも耳に残る。 どこからともなく聞こえる海鳥たちの声は、糸を引くような静けさに影を落とした。 呼吸をするたびに若葉の匂いが鼻を擽る。 うっすらと目を開けた僕はもう一度だけアントン様を見上げたんだ。 (……知っていますよ、アントン様) あなたがなぜ頻繁に村にやって来るのか。 彼は死ぬほど悔いているのだ。 身代わりのように処刑された両親のことを。 そして必死に詫びているのだ。 助けられなかったことを。 「…………」
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