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鋭く睨むと怯えたように一歩下がる。
「なんだよ」
「あ、……にいちゃ…笛…」
「はぁ?」
「笛、教えて」
サムは泣きそうになりながら葉を差し出した。
葉笛用の葉っぱだった。
「無理」
「あ…う…」
「今お前に構ってる暇ないんだよ」
そう言って体を戻すと、片づけを再開する。
サムは暫くそこに立っていたが無視をした。
彼はパタパタと足音を立てながらリビングに向う。
きっと母親に泣きつくのだろう。
また僕が怒られる。
分かりきった流れに疲れがどっと押し寄せた。
弟を邪険にしようとしているわけではない。
「お前まだ弟君を嫌ってんのか」
「!」
すると風呂に入り終えたアントン様が、肩にタオルを乗せながら顔を出した。
余計に機嫌が悪くなる。
「べつに…」
サムのウジウジした態度が気に入らなかった。
目の前で泣けばいいのに、いつも母さんに泣きつくんだ。
大体、母さんも彼が出来てからサムばっかり気に掛けるんだ。
僕がアントン様のお墓の世話をする様になったのも、お腹を大きくした母さんが墓までの道のりを歩けなくなったからだ。
――といって、サムを産んだ後も彼に付きっきりでいつも僕が怒られる。
これを不公平と言わないでなんというんだ。
でも文句を口に出したくない。
聞いた相手はお母さんが恋しいんでしょ?と思うに違いないからだ。
そう取られるのはあまりに癪である。
別に母さんが相手にしてくれないことを怒ってるんじゃない。
「ま、いいけどー」
アントン様は深く問いただすこともなく、後ろからぎゅっと抱き締めた。
「……はぁ。アントン様。これじゃ片付けられないんですけど」
「片付けなんていいよ。それより……」
「んっ…また!」
まだ足らないというのか。
先程あれだけ激しく抱いたというのに、またいやらしく指を這わす。
「あ、アントン様っ…ご飯が…!」
「ん、じゃあそれまでの間だけ」
「やっ…!」
まるで甘えるような仕草で寄り添ってきた。
背中にのしかかるように抱き締められて意味なく慌てる。
もしこんな所を家族に見られたら一大事だ。
「クリフ……」
「はぁ…っぅ、なんですか?」
「勇者ってのは弱き者を守るんだぞ」
「はっ…?」
「その為に人は強くなるのだ」
「…っ…」
それは弟との会話を指しているのだろうか。
詰まった喉元をぐっと堪える。
彼は何だかんだ言いながらおせっかいなのだ。
「……だから、アントン様は強くなられたのですか?」
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