序章

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彼の言葉を理解出来ない凪夜は 気付かぬ内に後退りしていて。 今は何故、名前を知ってるのか なんて疑問すら考えられない。 「凪夜さん、来て下さい」 右手を差し伸べながら話す彼を 振り切って逃げようとすれば。 思い切り左腕を握り締められて 後ろに身体が流れて動けない。 恐怖で溢れ出しそうになる涙を 堪えながら背後の吉高を睨む。 すると吉高は凪夜の睨みを見て 突然肩を左右に震わせ始めて。 「っはは、貴女ってお方は全く…無知で幼稚で馬鹿な姫君ですね」 「煩いッ…その減らず口を、」 抵抗で罵声を浴びせようとした その瞬間、凪夜は口を閉じた。 何故、と何処かの誰かが問えば こう答えざるを得ないだろう。 「腕をもがれた気分はどうだ?」 先程まで凪夜の腕を掴んでいた 彼の右手は地面に落ちていて。 傷口からは緋色の血が噴き出し とても見れた物ではなかった。 耳を裂くような彼の悲鳴だけが この地を恐怖で支配していて。
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