7人が本棚に入れています
本棚に追加
意味がわかっていて質問していたのではなかったと思います。
ただ私は、桃源郷を夢想していたのです。
そして、『苦』というもののない世の中、人生は、
実現出来るはずで、
ただ実現しない世界全てに、
無邪気で愚かな疑問いっぱいの目を向けていたのです。
どうして
どうして
事故や病気を免れているのに、
どうして苦しみや憎しみや切なさを、
みんな無くそうとしないの?
傷つけたり傷ついたりしないで、平和で穏やかに生きようとしないの?
何の苦労もない子供に
毎日のように、
そう尋ねられ
まとわりつかれて、
母はしばしば顔を歪めて叱責しました。
「子供のくせに何を言ってるのよ。苦しみだ悲しみだなんて、知りもしないくせに」
そして、こうした母の返答に、
私は口ごもり、
訊いてはいけないことなのだと焦って逃げ出しては、
益々不安になるのでした。
最初のコメントを投稿しよう!