空想の友達

4/6
前へ
/11ページ
次へ
父にそんな様子を目撃されてしまったのは、 ヒトガタが色つきの着せ替え紙人形にランクアップした頃でした。 自営業で自宅に事務所があるのだから、 いつまでも見られないほうが変だったのかもしれませんね。 二階のリビングにいる私を見たとき、 父が動揺したのがわかりました。 同時に過ったのは、どうしようもない罪悪感。 さえこは落ち着いて父を見上げていました。 「何をしてるんだ?」 努めて普段通りの声で、父は訊ねました。 父にさえこは見えません。 父の目には、紙人形の頸に紐を巻き付けて棚から吊るし、 鋏で切られた手足が散らばった部屋で、 一人遊びをいったい何時間していたのか知らない娘の姿だけ。 「…人形あそび」 言ってから、人形をバラバラにして遊んで悦んでいるように聞こえるのではと、 背中から汗が吹き出しました。 そうじゃなくても、説明する言葉を私は思い付けません。 父はドアの前に立ったまま、 近寄っては来ませんでした。 へえ、と頷いて見せてから、 ぶらんと吊られた人形の方を顎でしゃくっただけです。 「可哀想じゃないか。あんなことしたら」 どうしてだ? 泣きそうな顔にも見えたし、 怒り出す寸前のようにも見えました。 可哀想… それはわかってるよ、 お父さん。 なんと言えばいいんだろう? 「いつもじゃないの。センソウで、この子は生け贄になった子なんだよ」 いくつかの設定を繋いで口にしてはみました。 父の心が揺れたのは、そんな理由じゃないと、痛いほど知りながら。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加