序章 日常

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「もうお兄ちゃん、いつまで寝てるのよ!」  快音と共に勢いよく横滑りし、開かれた襖から飛び込んできたのは白色のセーラー服を着衣した妹、北野 美智子【きたの みちこ】の姿だ。  首元あたりまであるセミロングのふわりとした黒髪と大きな瞳が印象的である。    声を荒げる少女の瞳の先に映るのは、もぞもぞとうごめく布団の瘤と、辺りを散策してやまない右腕。 「もう!」  美智子は両こぶしを腰に当てながら呆れたように一声発すると、ツカツカと瘤の傍まで寄っていき「えいっ!」という掛声と同時に布団を思いっきり捲り上げる。  捲りあがった布団の中には母親のお腹にいる胎児の如く姿勢で、それでもなお腕のみを動かし続ける兄、北野 隆太【きたの りゅうた】の姿。 「ほらほら! もう早く起きて支度してよ! いい加減学校遅刻しちゃうよ!?」  そんな言葉を発しながらも、美智子は自分の足元で激しい音を鳴り響かせ転がる目覚まし時計を拾い上げスイッチに手を掛ける。  その頃になってようやく隆太は寝ぼけ眼を擦りながらむくりと起き上がり、同時に大きく伸びをした。  少年は妹と比べて身長は若干高いようだが、それでも一般の年頃の男子と比べると小さい方だろう。  起き上がった隆太の姿はTシャツ一枚と短パン一丁という格好である。
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