マエムキニ

4/58
前へ
/120ページ
次へ
「…よろしくお願いします」 雰囲気どおり小さな声だった。それとも、初めてだから緊張してるのかな。 「私がシフトリーダーだから、スケジュールのことで何かあったら言ってね、崇くん」 「はい」 「んじゃ荒井君、引き続きタマネギの皮むいといて」 あっくんが言うと、崇くんは厨房の奥へ戻っていった。 「あっ、神代さん、就職決まったの聞きましたよ。おめでとうございます」 「ありがとう」 内定をもらって、私は春から市内の商社で働くことになった。この不景気に我ながらよくやったと思うよ。 「でも、ここ2月いっぱいなんすよね?神代さんに抜けられるの痛いってみんな言ってますよー。なんでここの社員にならなかったんすか?」 「うん、誘ってくれた店長には悪いんだけど、父さんのことがあるからできるだけ近いところにしたかったんだ」 「あ…」 あっくんの顔が曇る。 「あはは。いいって、私も気にしてないからさ。じゃ、今日もよろしくね」
/120ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加