父親の存在

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新垣裕二、この男に裕太は何度となく威圧感と嫌悪感があった。 こいつの為に俺の人生狂ったんだと思い起こす。 当初は地元大学で普通の外科医として勤務。 普通一般の医者としてそこそこの定評もあった。 しかし、ある時そんな患者の中に心臓の難病の子が居た。 その子の名は長谷川夏樹。 夏樹は拡張型心筋症という難病で、日本では到底手術が出来ず、渡米しなければいくばくかという風前の灯火状態だった。 当初は、裕二もその生命の延命のみに従事しようと思い必須に治療を続けた。 しかし、その子が言った一言に、裕二の心が動いた。 桜キレイね。先生。そんな他愛ない話に、話を合わす裕二。 先生、桜は来年また咲くよね。でも私それ見れる?見れない? 一瞬、沈黙の間があった。 見れないよね。 うんとも言えるわけない裕二に夏樹は 先生ありがとう。ちゃんと教えてくれて。 帰宅すると単身アパートの雑然とした部屋に自分の心の置き場を探していた。 その当時は同然ネット社会ではなく、文献や情報も無いまま時間が過ぎた。 しかし、そんな中アメリカの大学病院からドナーがヒットしたと連絡があった。 そう、それが夏樹だった。 執刀医は裕二だった。 夏樹は精一杯の笑顔で、桜見せてくれるんだね。先生? うん。見せる。絶対に… しかし、やはり日本では前例の無い手術。ましてや、地域医療重視の医者がそんな大手術出来るかは神のみぞ知る状態だった。 手術開始。手術は順調に行くかと思えたが、突如脈拍は弱くなる夏樹。 裕二は必死で蘇生術を行う。 冷たい雰囲気の手術室で大きな声で夏樹の名を叫ぶ裕二に、同僚看護師の奈美が もう、先生。終わりましょう。 夏樹は、その笑顔を二度と見せること無く 死んだ。12歳。桜が散り新緑が眩しい5月の事だった。
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