動きだした歯車

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声をかけると、襖(ふすま)の向こうの影が微かに動き、低く掠れた声が聞こえる。 「…クロか。入れ」 その言葉を合図に、クロはそっと襖を開けて中に入る。大旦那様と呼ばれた年老いた男は、痩せ細った手を床について布団から起き上がった。 「報告か。いつもより遅かったな」 「…申し訳ございません。自分でも気がつかないうちに倒れていたようです」 クロは、まだ続く激しい頭痛に眉をひそめながら頭を下げる。 「そうか。アレの様子はどうだった」 頭を下げていたクロの結った髪を掴み自分の元へ引き寄せ、息がかかるほど近いクロの唇を妖しく撫でる。 「…いつもと変わりはありませっ」 クロの報告を聞くと同時に荒々しく唇を重ね、男の手はクロの服の裾の中に入り撫で回す。 「大旦那様、」 "やめてください"の言葉を続けることが出来なかった。拒否などすれば、首がとぶ。クロは拳を強く握り、襖越しに見えるまだ高い位置にある太陽を睨みつけた。
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