カミサマネジマキ

2/3
前へ
/3ページ
次へ
誰かの所為にしたい。わらわらと群れを成す群衆を見つめながら僕は思った。 僕が生まれた理由は、至極単純だ。『平和な世界』を作るため。 世界が平和であるためには、誰もが不満を抱えることなく、誰でも気軽に願いを叶えられるようにすればいい。科学者たちはそう考えた。 そして、僕が生まれた。 開発コード『JOKER』。それが僕の名前。生まれ落ちた時、タキシードを着て赤い鎌を持った僕を見て科学者は歓喜した。 「平和の為! 平和の為!」 と、やたらうるさかったのを覚えている。僕は何となくほかの物を見てみたくなって部屋を見渡した。後に知った事だがあの部屋は「実験室」というらしい。 その時、僕の眼に止まったものがある。 実験室に手錠でつながれた白髪の少年。その服装はみすぼらしく、血だらけで、よくよく見ればヒュー、ヒューと不健康な呼吸音が聞こえた。どうやら科学者と違い、口がきけないようだ。 もうしばらくその少年をみていたかったけど、科学者が僕の手を引いて連れて行こうとしているので、外に出てやることにした。 どうやら僕には『願いを叶える力』があるようだった。 僕は科学者の導きのまま人を救った。 一人目には『やり直しの利く人生』を。 二人目には『嫌な奴が忘れられる世界』を。 三人目には『先が見える人生』を。 僕に願いを叶えてやった人たちは皆僕を『カミサマ』と呼んだ。 科学者は世界に認められ、巨大な権力を得た。 その内科学者は結婚して、娘ができた。 名前は覚える気が無かったけど、その白い髪は「鬼の子」を思い出させるには充分で。 僕はこっそり二人を会わせてみた。 どうやら二人は気が合った様子で楽しそうに話していた。 少年少女の『友達が欲しい』と言う願いを、僕は力を使わずに叶えた。 そう思った時、なんだか胸の奥が熱くなったの覚えている。 でも、人々の心に僕と言う果実は甘すぎた様で。 しばらく経つと科学者の家には人々が殺到するようになっていた。皆喜びに満ちた顔で下種な願いを口々に叫んでいる。その世界は平和じゃなかった頃が平和に思えるようで。そんな現状を偽善者たちが良く思わないのも当然だった。 『カミサマ』が『パンドラボックス』と呼ばれるようになるのにそう時間はかからなかった。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加