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「で、どう?準備は。」
「まだあんま。来週アパート見に行って、たぶんそれで決める。」
「そっか。大変だな。」
「ああ、俺一人暮らしなんかできんのかな。」
「ほんとだよな。俺も海がちゃんと一人で生活できるのか心配だよ。」
「おまえに言われると反論のしようがないよ。」
「たまには飯作りに行ってやるよ。」
「まじで!?すげーうれしい。なにが問題かって料理が一番問題なんだよ。」
「は…」
早く彼女でも作って、と言おうとして言葉を飲み込んだ。
危ねえ…地雷踏むとこだった。
「は?何?」
「は、初めのうちだけだぞ。そのうちおまえが俺に御馳走すんだからな。」
と、なんとか誤魔化した。
「へいへい。がんばりますよ。」
「そんで、いつ取りに来る?」
俺がアパートで使っていた電化製品なんかを海に譲ることになっている。
「え、ああ、そうだな。いつがいいんだ?」
「うーん、そうだな。いつでもいいけど。住むとこ決まってからのがいいのか?」
「そうだな。その方がいいかも、おまえんとこから直接運べるし。」
「わかった。じゃあ準備しとくよ。」
「おまえはほんとにいいのか?一人暮らしする予定とかないのか?」
「うん、今んとこない。」
それに、出ることになっても一人じゃなくて、京と二人だろうし。
「でも、和泉さんとこに居候なんだろ。」
「うん。」
「ずっとそのつもりなのか?」
「いや、実は部屋数が足りてないから、この前引っ越し話が出てたんだけど、俺の進学先も決まってなかったしなんかうやむやになって兄貴は相変わらず和泉さんの部屋に居るよ。」
「へえ。」
海の目が点になっている。
和泉さんと兄貴が同室というのが意外だったんだろう。
「で、おまえは京と同室ってことか。」
「そういうこと。」
俺は当たり前のように言って退ける。変に反応すると空気が悪くなる。
京は俺の鬼だ。同室でなんの不自然もない。
「へえ。」
海はさっきと同じ反応を返した。
海もその辺は気を使ってくれているらしい。
こいつはホントいい奴だ。
海には気を許してしまう。
「ホントは俺と京が出て行くべきなんだろうな。」
心に引っかかっていた台詞がぽろりと出てしまった。
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