吾が輩は、困っておる

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なんと言うか…、もう恥ずかしくて口に出すのもはばかれるのだけれども、そう、ブルドック、犬のブルドックが俺と一緒に歩いているのだ。 おかげですれ違う人間や犬猫、果ては鳥や昆虫どもまでガン見である。当たり前だ。俺だって見る。 「親分!」 「親分って言うな!」 「……兄貴!」 「兄貴でもねえし!」 マグロの刺身は絶品だったが、昨夜はまったくとんでもない所へ泥棒に入ってしまったようだ。このブル公は先日俺が泥棒に入った家で、番犬をしていたのだ。 「俺、昨夜兄貴に会って目が覚めたんす。一生ついて行きます!お願いします!」 「いやいや頼むから大人しく帰ってくれよ。仕事になりゃしねえよ」 あぁ、自分の天才肌が恨めしい。その家に番犬がいることは下見の時点で分かっていたことだ。しかし超一流の泥棒猫であるプライドはあえて俺にその家をターゲットとして選ばせた。けっしてマグロの刺身に目が眩んだわけではない。 いよいよ泥棒の本番、という時、庭の塀に飛び乗った瞬間こいつと目が合った。小さな庭を挟んだ向こうにリビングがあり、一面ガラスのその戸口にこいつは立っていたのだ。その距離はおよそ三~四メートル。 昨夜は日差しも良く少々暑かったせいかガラス戸も半分くらい開いていた。この家の主婦が二階のベランダで洗濯物を取り込んでいる最中なのは確認済みだし、他に人がいるような気配もない。ここから侵入できればこんなに簡単な仕事はない。ブル公は塀の上の俺を宇宙人とでも遭遇したかのごとく固まったまま見入っていたが、俺が少し体の重心を前にして飛び移る仕草を見せると、一丁前に牙を剥き出してワグワグと二、三発吠えて見せやがった。それで俺も火がついた。仮に本気で襲いかかられてもスピードと小回りなら俺が上。草原のような広い場所ならまだしも狭くて障害物の多い家の中なら俺の方が有利なはずだ。 そう思い、俺は塀の縁を思い切り踏み切りガラス戸の隙間目掛けて飛んだ。とりあえずブル公の背中を飛び越え有利な体勢を整えようと思ったのだが着地点確認のため空中で下を見て驚いた。ブル公は「キャン!」と情けない声を上げ、尻尾を丸めながら俺の着地点方向へ逃げるもんだから、必然的にブル公の背中を踏みつける形で着地することになった。背中を踏まれたブル公は再び「キャン!」とこちらが驚くほど大きな声を上げ、テーブルの下に隠れた。
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