1ずれ

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教室に入ると やはり来ている人は疎らだった。 いつもは半分近くは 埋まっているのだが。 「おはよう」 窓側の席にいた真田君が 僕に声をかけた。 彼は僕の親友 僕の尊敬する たった一人の男だった。 「おはよう」 僕も挨拶を返した。 彼なら 昨夜僕が見たものについての 話を真面目に聞いてくれるだろうと思った。 だが僕が話し出す前に 先生がやってきて課外が始まった。 今日はちょっと早いな。 僕は自分の席に着いて 教科書とノートを 取り出しながら おかしなことに気がついた。 先生が違う。 今日は火曜日で 鈴木先生の数学の課外の筈だ。 だが教壇に立っているのは 英語の木戸先生だった。 ハハ。先生が間違えたのだ。 一瞬僕はそう思ってにやりとした。 だが周囲を見回すと クラスメイト達は皆 英語の教科書を手にしていた。 僕は自分の顔に血が昇るのを感じた。 僕が間違えたのだ。 なんてこった。 これじゃあ朝早く起きて 学校に来た意味がない。 念の為横の席の 前原君に小さな声で聞いてみた。 「ねえ、今日は数学じゃなかったっけ?」 前原君は何言ってるんだこいつ というような目で僕を見た。 「今日は火曜だろ。英語だよ」 前原君は言った。 僕は恥ずかしさで 頭が一杯になっていた。 僕は黙って数学の教科書を鞄にしまった。
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