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§優花side§
奏「……えと、優花ちゃん?」
優花「ごまかさないで下さい。お姉ちゃん――ううん、奏さん。ヒナ兄の事……本当に本気なんですか?」
名前を呼び直し、言葉を繰り返し言うと、かすかに彼女の頬がピクッと動いたのが見てとれた。
動揺――とは違う。これは……
奏「……それって、陽向の過去を知った上で――って事かな?」
優花「!……はい」
クルッと向き直って言う奏さんに、私は真っ直ぐその瞳を見返し、しっかり頷いた。
それに「そっか」と呟くように言い、身につけていたエプロンを脱ぎ、ウェイターのように左腕にかけるようにして持ち、彼女はふいと天井を仰いだ。
奏「……私は、陽向に一目惚れしてたの」
誰にともなく問いかけるように、奏さんはそう切り出した。
ややマイペースなその様に、私は一瞬だけど冷静さを欠きそうになった。
一度頭を振り、改めて天井を仰いだままでいる彼女を見据える。
優花「……だった、ですか?」
奏「不思議な話なんだけどね、私……初めて会って話して、陽向の第一印象は『お兄ちゃんみたいな人だな』だったの」
それは分かる気がする。あの性格といい、優しさといい、包容力といい……
奏「――けどね、私は陽向と一緒に居る時間が長くなっていって、その中で……感情(きもち)は変わっていったの。……私、彼に惹かれてる。彼の事が好きなんだ――ってね」
優花「……それは、ヒナ兄の過去を知る前から?」
奏「うん。6月くらいだったから、会ってたった2ヶ月くらいで好きになっちゃったみたいなんだよね」
優花「そうだったんですか……」
奏「……一方的な片思い。そう思ってたんだけどね?」
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